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カーボンニュートラルに向けた建築物(非住宅)の建築計画について

2024/11/25up

地球温暖化、気候変動リスクへの対応が急務となるなか、我が国は2050年までに国内の温暖化ガスの排出を「実質ゼロ」とするカーボンニュートラル宣言をしています。国内の温暖化ガス排出において建築業界が3割以上を占めており、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)が重要なファクターとなっています。日本の第6次エネルギー基本計画では、2030年度以降に新築される建築物はZEB水準の性能確保を目指すとしており、既に2024年4月から大型の新築建物については省エネルギー基準が引き上げられています。

ZEBへのアプローチ(イメージ)

出典:ZEB設計ガイドライン(ZEBロードマップ フォローアップ委員会)

ZEBは3段階に定義されています。

『ZEB』 ・・・ 基準一次エネルギー消費量から100%以上削減(正味ゼロ)またはマイナス
Nearly ZEB ・・・ 基準一次エネルギー消費量から75%以上削減
ZEB Ready ・・・ 基準一次エネルギー消費量から50%以上削減

イメージ図に示すとおり、『ZEB』やNearly ZEBも50%以上の削減が必要で、まずはこの省エネルギーを実現し、そこから再生可能エネルギーの導入も加味した削減量による評価となる点に注意が必要です。

また、建築物のエネルギー消費性能を示すBELS(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System)の認証制度によって、ZEB建築であるお墨付きを取得するケースも増えています。

ZEB建築を実現するために考慮すべきポイント

省エネルギーを実現するZEB建築を計画するためのポイントをいくつか示します。年間を通じて建築は非常に多くのエネルギーを消費しますが、なかでも事務所ビルでは空調の消費エネルギーが約半分を占めるため、空調負荷を低減することが肝要であり、建物方位や、窓・庇等の開口部の外装性能や断熱性能が大変重要になります。設備的にも高効率機器の採用や、特にLED照明の採用は効果的です。大型ビルで様々な省エネ対策によりZEB Ready水準までの取り組みを試算したグラフを参考に示します。

(BEI:Building Energy-efficiency Index 建物の省エネルギーを評価する指標)
出典:三菱地所設計 試算グラフ

建築計画から設備計画まで様々な検討や工夫が必要であることから、設計の早い段階からエネルギー消費量を抑える取り組みが重要となります。また、ZEBの実現は規模や用途によって難易度が異なり、大規模になるほど難易度は上がります。ホテルや商業、とくに飲食店舗はZEB実現のハードルは高くなる傾向があります。

エンボディドカーボンへの取り組み

建築分野においてカーボンニュートラル、脱炭素社会を実現するには、省エネルギーや再生可能エネルギーによるオペレーショナルカーボンに加えて、新築・改修・解体時に発生するエンボディドカーボンを含めたホールライフカーボン削減への取り組みが求められます。近年、特に欧州では再生可能エネルギーが国全体の8割を超えている国もあり、建設時の温暖化ガス排出の割合が相対的に増えていることから、木造・木質建築に代表される使用材料等を含めた建設時のさまざまな脱炭素の取り組みが求められています。

出典:IBECs 住宅・建築SDGs推進センター ウェブサイトより

これから求められる建築のあり方

カーボンニュートラルへの取り組みは大変重要ですが、同様に人が健康で快適に過ごすことができる建築物かどうかも重要な観点となります。
近年、価値観の多様化や働き方改革によって個人のワークライフバランスが重視されるなか、ウェルネスやウェルビーイングという概念が注目されています。これは身体的・精神的・社会的な健康につながる具体的な活動や状態を示す概念であり、これらの実現により、生産性の向上も期待できます。一般に健康で快適な空間形成には明るさや温湿度調整等、エネルギーを要するため、カーボンニュートラルとウェルネスは相反する部分がありますが、これをいかに両立させるかが重要であり、これからの建築にますます求められるポイントとなります。
ウェルネスな建物環境を評価する国際的な認証制度であるWELL認証や、国内のCASBEE WO(CASBEEウェルネスオフィス)の認証制度もあり、これらの認証取得におけるウェルビーイングへの取り組みも広がりをみせています。

画像:WELL画像:CASBEE
<執筆者>
羽鳥 大輔(株式会社三菱地所設計 R&D推進部・機械設備設計部)