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限界耐力計算《限界耐力計算に想定される適用範囲と損傷限界の検討における留意点》

2023/3/13up

限界耐力計算によって建物を設計する場合の注意点

この計算法の用いられ方についてさまざまな問題点が指摘されており、確認審査における一般的な留意事項として記述します。作成にあたっては、「平成17年度日本建築行政会議構造部会報告」、また「全国会議限界耐力解説書―2001」と同書の講習会Q&A、技術基準解説書、技術的背景、日事連Q&A等を参考にしています。

1.限界耐力計算に想定される適用範囲

限界耐力計算がそのまま適用できないものとして次のような建築物が考えられます。

  • 1)剛性が一様でないもの
  • 2)履歴特性が一様でないもの
  • 3)偏心が大きいもの
  • 4)多剛床となるもの
  • 5)地盤の液状化が想定されるもの
  • 6)超高層建築物(60mを超える建築物等)
  • 7)崩壊形が明快でないもの

限界耐力計算は、多質点系である建築物を等価な1質点系に置換したモデルで計算するため、剛性や履歴特性が一様でないものの計算には不適となります。また、剛床仮定が成立する並進系の振動のみを対象としているため、偏心が大きいものや多剛床となるものにも適していません。このように、一様でない形態の建築物に対する安全性の検討は、その特殊な形態等に応じた適切な振動モデルを設定し、時刻歴応答解析等の詳細な検討法を採用する必要があります。

限界耐力計算が採用している等価線形化法は、塑性化後の固有モードが弾性時のものと概ね同じであるような建築物に対しては問題ありませんが、ある層が局部的に塑性化するような建築物に対しては塑性化後においてモード形が変化し、それに応じて等価質量および固有周期等が変動するため妥当ではありません。

2.損傷限界の検討における留意点

(1)損傷限界耐力(Qd)と必要損傷限界耐力(Qdn)の検証

①損傷限界耐力Qdの算定方法

損傷限界耐力は、荷重増分解析で算定する事とされています(平成12年告示第1457号第1)。
RC造建築物等において、荷重増分解析によりひび割れによる剛性低下を考慮する場合は、必要損傷限界耐力Qdnの算定にあたっては留意が必要です。RC造建築物で、ひび割れによる部材剛性の低下を考慮する場合は、実際の部材の剛性に対して、モデル化した部材の剛性を低く評価し、損傷限界固有周期Tdを長めに算定することによって、結果として中地震時の応答せん断力値(必要損傷限界耐力Qdn)が過小評価されるようなことがないように留意する必要があります。
損傷限界耐力時の検討においても、実際に生じることが予想されるひび割れについて考慮して非線形解析をすることにより、変形を精度よく算定することができます。部材の復元力特性には、弾性剛性およびひび割れ点の設定が大きく影響を及ぼすため、この設定においては、構造体の実際のコンクリート強度の把握が重要です。また、安易にロッキングまたはスウェイを考慮して解析すると、固有周期が伸び、Qdが過小に評価されることになり、危険側になる可能性があるため、注意が必要です。

②耐震偽装事件などで判明した問題点

  • 損傷限界時(稀に発生する地震動に対する許容応力度計算相当)において、弾性範囲を超えるような過度なひび割れ等を考慮して固有周期を延ばし、非常に低い層せん断力(Co<0.1程度、なお許容応力度計算のCoは0.2)により設計が行われていた。
  • Gs等を都合良く設定し、損傷限界時、安全限界時に低い地震力で設計がされていた。
  • 必要な部材の変形角の確認(部材設計等)が行われていなかった。

③耐震偽装事件後の平成19年6月20日法改正後の稀に発生する地震動について

平成19年施行の改正法により、平成12年告示第1457号第10第1項(地盤種別に基づくGs)が改正されました。本改正により、稀に発生する地震に対しては、限界耐力計算においても、損傷限界時にほぼ許容応力度計算と同等のベースシア(=0.2ZRt)が確保されるように規定されました。

(2) 表層地盤による加速度の増幅(Gs)

前述の耐震偽装事件などで判明した問題点を受けて、平成19年施行の改正法により、平成12年告示第1457号第10が改正されました。
主な内容は以下の通りです。

①表層地盤による加速度の増幅率を表す数値Gsについて、中規模の地震時に採用できる計算方法を地盤種別に基づく略算的な方法に限定(告示第10第1項)

②極めて稀に発生する地震動(大規模な地震時)について検討を行う時のGsの数値を精算する際において、地盤が液状化する恐れがないことを条件とする。加えて、地盤調査によって地下深所に至る十分な層厚と剛性を有し、かつ、次のイからハまでに掲げる基準に適合する工学的基盤を有することを確かめること。(告示第10第2項)

イ)地盤のせん断波速度が約400メートル毎秒以上であること。

ロ)地盤の厚さが5メートル以上であること。

ハ)建築物の直下を中心とし、表層地盤の厚さの5倍程度の範囲において地盤の深さが一様なものとして5度以下の傾斜であること。ただし、特別な調査または研究の結果に基づき傾斜する工学的基盤からの地震動の増幅と同等以上の増幅を計算できる場合にあっては、この限りでない。

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