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既存テナントオフィスビルにおけるZEB化リノベーションの取り組み(前編)

2024/6/24up

世界的な気候変動リスクへの関心が高まるなか、我が国は2050年のカーボンニュートラル化を宣言しました。建築業界においても2050年までの脱炭素ロードマップが作成され、建物の環境性能については2030年までに新築建築物をZEB基準へ、2050年までに既存ストック平均でZEB基準へ引き上げることを目標に掲げています。現に2024年4月から新築建物の省エネ基準が引き上げられ、環境性能が高い建物へのニーズの高まりから、ZEB認証を取得した新築建物の普及はより進んでいくと予想されます。

一方で、既存建物についてのZEB実績はまだまだ少ない状況となっています。これまでに数多く建てられてきた建物の省エネ化、ZEB化を図らないことには、「既存ストック平均でZEB基準」、「カーボンニュートラル社会の実現」という国が掲げる目標達成は困難です。既存建物のZEB化は業界全体で推し進めていくべき重要な取り組みだと考えられます。

2024年4月より省エネ性能表示制度がスタートし、建築物を販売・賃貸する事業者に省エネ性能ラベルの表示が努力義務となりました。今後、省エネ性能ラベルの有無、ZEB水準や環境性能の優劣による選別が進み、既存建物においても環境性能の向上やZEB化へのニーズは高まっていく可能性があります。

竣工日が評価日より前の日付を既存と分類したグラフ画像
グラフ画像作成:株式会社三菱地所設計

※ 竣工日が評価日より前の日付を既存と分類。
ZEBシリーズには、ZEB・Nearly ZEB・ZEB Ready・ZEB Orientedを含む。

非住宅建築物の既存ZEB実績の推移(事務所等)。既存ビルのZEB実績件数は未だ少ない状況。

出典:(一社)住宅性能評価・表示協会 事例データ

日本のオフィスビルのストック量のグラフ画像
グラフ画像作成:株式会社三菱地所設計

日本のオフィスビルのストック量。2050年ストック平均でZEB基準の達成には、多くの既存建物の省エネ化・ZEB化が課題。

出典:(一財)日本不動産研究所 全国オフィスビル調査(2023年1月現在)調査結果公表資料

既存建物のZEB化が進まない背景には、「ZEB化をするには、とにかくお金がかかりそう」「工事が大変で実現が難しそう」「具体的にどんな改修が必要なのかわからない」といった懸念が挙げられると思われます。また、既存建物ならではの問題として、既存設備からの仕様変更に伴い、「照明が暗い!」「暑い・寒い!」といった既存テナント入居者、利用者からのクレームを防ぐために「単純リプレース=既存設備の最新機器へと置き換えること」で改修してしまうケースが多いことも要因にあると考えています。実際に、ZEB化実現に向けて空調システムや空調容量・照度の変更が必要になるケースがありますが、現状と環境が変わることによるこうしたクレームが心配されるケースは多々あります。

既存ZEB化のためには、この「単純リプレース」を避け、現地の状況に合わせた設計を行うことが大切です。現地調査に基づいて、現状の設計条件を再設定し、改修工事によりどの程度ZEBに近づくかを見える化し、これらのことをクライアントやビル管理者に丁寧に説明し、理解してもらいながら設計を進めることが重要となります。踏み込んだ提案にはリスクも少なからず存在しますが、これまでの改修実績や、ノウハウの蓄積、運用検証を積み重ねていくことによってリスクを抑えていくことができると考えます。

次回はリノベーションによるZEB化のプロセスや、実際のZEB認証取得事例をご紹介します。

<執筆者>
長 圭一郎(株式会社三菱地所設計 リノベーション設計部 兼 カーボンニュートラル計画室)