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既存テナントオフィスビルにおけるZEB化リノベーションの取り組み(後編)2024/7/22up
後編は既存テナントオフィスビルのZEB化のプロセス、ZEB認証取得事例、認証取得後のフォローアップについてご紹介します。 リノベーションによるZEB化を目指すうえでは、まず現状の建物情報やこれまでの改修履歴の確認をベースに、現状の環境性能BEI※1を把握することが大切です。そうすることで、ZEB化を達成するためには、何が課題で、どのような対策を施す必要があるかがおおよそ見えてきます。特に、建物の一次エネルギー使用量のうち空調と照明が占める割合は大きいため、充分な検討が必要です。改修手法を検討しながらZEB水準となるまでBEIの算出・把握が必要になりますが、その達成の難易度は建物の種類(規模、建築仕様、設備仕様等)によって異なります。 また、保有するテナントオフィスビルに対してどこまで投資できるかは、クライアントや既存ビルの状況に応じてさまざまであるため、対策工事ごとにどの程度のコストがかかるのか、どのように環境性能が改善されるのかを『見える化』し、ZEB達成までの道筋をクライアントに示していくことが重要です。株式会社三菱地所設計では下図のように、対策工事ごとの環境性能BEIをベースに、当初予算から大きく増額にならないかたちで、BELS※25スターを目指したケース、ZEB認証の取得を目指したケースなどをコストとともに示し、事業者が投資計画(長期修繕計画)に応じて選択できるようにしています。このモデルケースでは、空調容量の適正化を図った更新は、単純リプレースでの更新と比べて大きな改善が見られることが確認できます。なお、これまでの認証取得事例のなかには、単純リプレースと比較して工事費をアップさせずにZEB化を実現したケースもあります。 ※1 BEI(Building Energy Index):エネルギー消費性能計算プログラムに基づく、基準建築物と比較した時の設計建築物の一次エネルギー消費量の割合を示す。再生可能エネルギーを除き、BEI≦0.50の場合にはZEB Readyと判定されます。 ※2 BELS(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System) 株式会社三菱地所設計がリノベーションによるZEB化認証を取得したテナントオフィスビルはこれまでに6棟(2024年6月時点)ありますが、認証を取得したら終わりではなく、改修工事のフォローアップや運用段階でのデータ検証も大切です。 ZEB化を実現するためには、容量の適正化によるダウンサインジングが重要なポイントになりますが、これにより運用段階においてテナントからのクレームの発生はクライアントが特に懸念する部分です。例えば、ZEB認証を取得した中規模テナントオフィスビルにおける検証事例(下図)では、改修により空調機の大幅なダウンサイジングを図っても問題が発生しないだけでなく、効率的に運用できていることが計測により確認されました。 既存テナントオフィスビルにおいては、中央監視データが充分にない建物も多くありますが、できる限り「設計段階での削減効果」と「運用段階での削減効果」をクライアントに示すことが重要です。また、このような検証を今後の設計にフィードバックしていくことで、既存建物の省エネ化の推進、さらには都市全体のCO2削減につなげていけるものと考えています。国が目標に掲げる、「2050年のストック平均でのZEB化の達成」に向けて、既存ビルのZEB化を業界全体で推進していくことが重要なミッションとなることは間違いありません。 <執筆者>長 圭一郎(株式会社三菱地所設計 リノベーション設計部 兼 カーボンニュートラル計画室) |
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