カーボンニュートラルに向けた建築物(非住宅)の建築計画について
〜ZEB建築の実例からみる技術的アプローチ〜
2025/02/26up
前編では、気候変動リスクの高まりを受け、国内で新築される建築物にZEB水準の性能確保が求められるなか、ZEBとはどういうものか、ZEB建築を実現するために考慮すべきポイントや、これからの建築に求められるあり方について述べました。
今回の後編では、ZEB建築を実現した事例を、具体的な技術解説とともに示します。
高砂熱学イノベーションセンター 〜再生可能エネルギーの積極利用〜
出典:高砂熱学工業株式会社
【建築概要】
- 事業主:高砂熱学工業株式会社
- 所在地:茨城県つくばみらい市
- 延床面積:11,763u
- 主要用途:研究施設
- 竣工年月:2020年1月
- BELS:Nearly ZEB・LEED v4(GOLD)
- CASBEE WO(Sランク)
各方位の熱・光環境に即したファサード計画に加え、屋内外を両面断熱とした屋上スラブなどの高断熱仕様の導入によって熱負荷を大幅に削減しています。さらに、豊富な地下水を放射空調やデシカント空調へ活用し、太陽光発電(200kW)と木質チップ燃焼のバイオマスCHP(40 kW×2台)を、大規模蓄電池(約4,500kWh)と組み合わせたエネルギー管理システム(EMS)により、負荷や天候を予測して最適制御を行っています。
これらの再生可能エネルギーを積極的に活用することで、実績値として敷地全体でNearly ZEBを、オフィス棟で『ZEB』を達成しています。

出典:高砂熱学工業イノベーションセンター報より
SUSTIE(三菱電機ZEB関連技術実証棟)
出典:三菱電機株式会社
【建築概要】
- 事業主:三菱電機株式会社
- 所在地 :神奈川県鎌倉市
- 延床面積:6,456u
- 主要用途:事務所・社員食堂
- 竣工年月:2020年8月
- BELS『ZEB』・WELL認証(プラチナ)・CASBEE WO(Sランク)
建築計画の工夫や外皮性能の強化などにより、徹底した省エネ化を図り、空調負荷を大幅に削減しました。空気式放射空調システムやレンズ制御型照明器具の採用に加え、AIやIoTを活用したZEB運用システムにより、年間のエネルギー収支や快適性に与える影響をシミュレーションで事前確認し、オフィス空間の快適性・健康性と高い省エネ性を両立させる取組みを行っています。
合計約360kWの太陽光パネルをすべて建物上に設置することで、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)最高評価の『ZEB』を取得、建築物の健康性を評価するWELL認証では最高ランクの「プラチナ」を取得しています。
また、エンボディドカーボンに影響の大きい空調冷媒低減の取り組みとして、空調冷媒の少量化や地球温暖化係数が低いR32を積極的に採用することで、試算の上では空調システム全体のエンボディドカーボンを68.9% 削減する効果がありました。
出典:三菱地所設計 算出資料
大手町ゲートビルディング 〜超高層ビルのZEB Ready〜
出典:三菱地所株式会社
【建築概要】
- 事業主:三菱地所株式会社
- 所在地:東京都千代田区
- 延床面積:約85,200u
- 主要用途:事務所、店舗他
- 竣工年月:2026年度予定
- BELS:ZEB Ready(事務所部分)
夏期の日射負荷を軽減するため、メインファサードを北面開口とし、高性能ガラスを採用することで外皮性能を強化、建物全体のエネルギー負荷低減を実現しています。さらに、基準階空調機の全熱交換器組み込みや、昼光利用制御などの先進的な環境技術の導入により、事務所部分のZEB Ready認証を取得しています。
また、電気熱源主体の高効率な地域冷暖房(DHC)の冷水・温水を受け入れていることもZEB Ready認証の取得に寄与しています。
まとめ
カーボンニュートラルに向けた建築物は、知的生産性や健康性を満たしつつ、ZEB建築のような高い省エネルギー性能が求められます。その実現のためには建物配置を含むプランニングや高い外装性能をベースに、高効率な設備システムの組み合わせが必要となります。
また、省エネルギーだけでなく、再生可能エネルギーの普及に伴い、建設時のCO2排出量、いわゆるエンボディドカーボンの重要性も高まっています。まずはエンボディドカーボンを算出して把握し、トータルのCO2排出量であるホールライフカーボンを低減していく取り組みがますます重要になっています。
<執筆者>
羽鳥 大輔(株式会社三菱地所設計 R&D推進部・機械設備設計部)