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脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律等の施行について④

2024/7/19up

「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(改正法)」の一部が、令和6年4月1日に施行されました。今回施行された改正法等による改正後の建築基準法、施行令、施行規則および関連告示等について、その概要を次の5回に分けて紹介します。

「耐火建築物に係る主要構造部規制の合理化(法第2条第9号の2イ関係)」および「確認申請書の改正」(規則第1条の3等、別記2号様式等関係)

② 大規模木造建築物の主要構造部規制の合理化(法第21条第2項関係)

「防火規制に係る別棟みなし規定の創設(法第21条第3項、第27条第4項、第61条第2項等関係)」および「防火壁の設置範囲の合理化(法第26条関係)」

④ 防火避難規定に係る既存不適格建築物の増築等に係る規制の合理化(法第86条の7関係)

「排煙設備の設置を要しない火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分を定める件(平成12年建設省告示第1436号)」および「壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを防火上支障がないようにすることを要しない火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分を定める件(令和2年3月6日国土交通省告示第251号)」の一部改正

今回は、④「防火避難規定に係る既存不適格建築物の増築等に係る規制の合理化(法第86条の7関係)」について紹介します。

既存不適格建築物に係る増築等時における制限の緩和の対象に防火避難規定が追加されました。各規定の趣旨に応じて、小規模な増改築、規定の適用上別棟とみなすことができる部分の増築や屋根、外壁に係る大規模な修繕、模様替など、一定の範囲の増築等においては、現行の基準に適合するための改修を行うことを緩和されています。

小規模な増改築(法第86条第1項)

防火避難規定に係る既存不適格建築物において、増改築に係る対象床面積※1が50u以下かつ基準時における延べ面積の1/20を超えない小規模な増改築をする場合で、既存部分の危険性が増加しない等※2 の条件を満たすものについては、既存不適格のまま増改築を行うことができることとなりました。

※1 増改築に係る対象床面積の算定では、「階段室、機械室その他の火災の発生のおそれの少ない用途を定める件」(令和6年国土交通省告示第274号)において定める用途に供する部分の面積は除かれます。なお、この対象床面積の算定方法は、防火避難規定に限ったものであることに注意が必要です。

※2 各規定における既存部分の危険性が増大しないこと等の確認について各規定の趣旨に応じ、当該小規模な増改築により既存部分の危険性が増大しないこと等が要件とされています。以下は、各規定における運用の参考例です。

対象規定 要件 運用の例
法第21条第1項 既存部分の倒壊および延焼の危険性を増大させないものであること 基準時における当該建築物の地階を除く階数および高さを超えないこと
法第22条第1項 既存部分の屋根における延焼の危険性を増大させないものであること 増改築部分の屋根を令第109条の9に掲げる基準に適合するものとすること
法第23条 既存部分の外壁における延焼の危険性を増大させないものであること 増改築部分の外壁の延焼のおそれのある部分を準防火構造とすること
法第25条 既存部分の外壁および軒裏並びに屋根 における延焼の危険性を増大させないものであること 増改築部分の外壁・軒裏の延焼のおそれのある部分を防火構造とすること

増改築部分の屋根を令第109条の9に掲げる基準に適合するものとすること

法第35条(階段等に関する技術的基準) 既存部分における避難の安全上支障とならないものであること

令第121条(二以上の直通階段)の規定に係る既存不適格である場合には、退避区画を設置すること(※一時的に煙から退避できるスペース)

避難階段や出入り口を増設する場合にあっては、当該増設部分が各規定に適合すること(居室に係る部分の増築は令第137条の6の2第2項により認められない)

法第35条(敷地内の避難上および消火上必要な通路に関する技術的基準) 既存部分における避難および消火の安全上支障とならないものであること 敷地内通路の最小幅が基準時における最小幅より狭くならないこと(居室に係る部分の増築は令第137条の6の3第2項により認められない)
法第36条(防火壁等に関する術的基準) 既存部分における延焼の危険性を増大させないものであること 以下に掲げる場合に該当する増改築にあっては、増改築部分と既存部分との境界部分を、各規定を満たす壁、床や防火設備で区画すること
  • 高層区画(令第112条第7〜9項)):増改築部分が11階以上の部分である場合
  • 竪穴区画(令第112条第11,13項)):増改築部分の全部または一部が竪穴部分に該当する場合
  • 異種用途区画(令第112条第18項)):増改築部分を特殊用途に供する場合
  • 長屋・共同住宅の各戸の界壁(令第114条第1項):住戸を増改築する場合
  • 学校等における防火上主要な間仕切り壁(令第114条第2項):増改築部分が防火上主要な間仕切り壁の設置単位に該当する場合
  • 小屋裏隔壁(令第114条第3項):増改築部分の小屋組が木造である場合
  • 渡り廊下(令第114条第4項):渡り廊下を新設する場合
法第62条 既存部分の屋根における延焼の危険性を増大させないものであること 増改築部分の屋根を令第136条の2の2に掲げる基準に適合するものとすること
(画像)対象とする改修イメージ:@省エネ設備や防災設備の増設 A水回りの増設 B築古の公営住宅で便所・浴室を省エネ性能の高いものに一斉リニューアル C中層マンション等で階段を増設

出典:国土交通省 住宅局「建築基準法・建築物省エネ法 改正法制度説明資料」

防火別棟・避難別棟を増築する場合(法第86条第1項)

増改築により新たに火熱遮断壁等で区画する場合に係る当該増改築部分の基準等が、「法第3条第2項の規定により法第21条等の適用を受けない建築物に係る増築または改築に係る部分の構造方法等を定める件」(令和6年国土交通省告示第275号)として新たに定められました。

(画像)対象とする改修イメージ:防火別棟・避難別棟を増築する場合(法第86条第1項)

出典:国土交通省 住宅局「建築基準法・建築物省エネ法 改正法制度説明資料」

火熱遮断壁等で区画された別棟部分が増築等の前から2以上存在する場合(法第86条第2項)

建築物の2以上の部分が火熱遮断壁等で区画されている場合には、当該2以上の部分を防火規制の適用上別の建築物として取扱うことができるようになりました※3。火熱遮断壁等で分離された部分の一方を増築等する場合にあっては、増築等をする部分以外の部分は現行規定への適合が求められないこととなりました。

※3 参照 「③脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律等の施行について」

(画像)対象とする改修イメージ:建築物の2以上の部分が火熱遮断壁等で区画されている場合には、当該2以上の部分を防火規制の適用上別の建築物として取扱うことができるようになった

出典:国土交通省 住宅局「建築基準法・建築物省エネ法 改正法制度説明資料」

部分適用における制限の緩和について(法第86条第3項)

法第86条の7第3項では、建築物の部分に係る規定に係る既存不適格建築物において増築等する場合については、当該増築等をする部分以外の部分について現行規定への適合を求めないことを定めています。ここに、緩和対象規定として新たに令第119条(廊下幅)、令第5章第4節(非常用の照明装置)、令第5章第5節(非常用の進入口)、法第35条の2(内装制限)が追加されました。これらの規定の運用においては、それぞれの規定に応じて、例えば次に掲げる単位を当該増築等する部分として現行規定への適合を求めます。

対象規定 増築等をする部分としてみなす単位
令第119条(廊下幅) 階単位
令第5章第4節(非常用の照明装置) 居室および当該居室からの避難経路単位
令第5章第5節(非常用の進入口) 階単位
法第35条の2(内装制限) 居室および当該居室からの避難経路単位
(画像)対象とする改修イメージ:例)廊下幅が基準(令第119条)を下回る場合

出典:国土交通省 住宅局「建築基準法・建築物省エネ法 改正法制度説明資料」