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避難安全検証法《避難安全検証法上の問題点》

2023/1/23up

1.煙降下時間と避難時間との関係について

「想定された火災室」から「非火災室」、「非火災室」から「階段室」への避難時間および煙降下時間は下記2つの算定基準(以下「ルートB1」)で検証します。

  • 階避難時間の算定

    当該階の火災室ごとに、階に存するものすべてが当該火災室で火災が発生してから当該階からの避難を終了するまでに要する時間(令第129条)の最大値。

  • 煙降下時間の算定

    当該階の火災室ごとに、当該火災室で発生した火災により生じた煙またはガスが、当該階の各居室(当該火災室を除く)および当該居室から直通階段に通ずる主たる廊下、その他の建築物の部分において避難上支障のある高さまで降下するために要する時間を、当該階の各室の用途、床面積および天井の高さ、各室の壁およびこれに設ける開口部の構造、各室に設ける排煙設備の構造並びに各室の壁および天井の仕上げに用いる材料の種類に応じて、国土交通大臣が定める方法により計算(令第129条)した時間が階避難時間を超えないこと。

    ただし、この結果は、あくまでも階避難時間(最大)と煙降下時間の比較であり、最終安全区画の階段室までの結果のみの検証となっています。計算上は「階段室に至るまでの煙降下時間>階避難時間」となり問題がなかったとしても、階段室に至るまでの避難途中で、煙が在館者を追い越したため、在館者が煙にさらされるケースが多数発生しています。従来の防災評定において煙降下時間という概念はなく、付加事項ではありますが、評価の一部分に「避難時間と在館者の滞留の評価」があり、避難途中で求められた滞留人数を超えないよう検討がなされていました。避難安全検証法においても、極端な煙降下時間の比較とならないよう計画が求められます
    ※<図1>参照。

<図1>

図1

このような避難計画を実施すると、階段の前室にたどり着く前に煙にまかれる状態となり、後から来た人が押し寄せ、群集災害という二次災害を起こす危険が高くなります。しかし、避難安全検証法の告示式では、避難途中の煙降下と避難時間の比較を行わないため、出口の手前に前室を設け、防煙性能の高い扉を設置し、天井を高く計画することのみで安易に建築物の検証がなされてしまいます。これは、非常に危険な設計と言わざるを得ません。また、特別避難階段の附室を設けた場合も、意図的ではなくとも同様に附室の手前で避難時間が煙降下時間を超えている可能性があります。そのような場合、例えば、前室または附室の手前の室を階の出口と設定し、天井高さを高くする、有効な排煙設備を設ける等の配慮をして避難時間と煙降下時間の確認をすることで、非常に安全性の高い避難計画になると考えます。

2.Aloadの算定について

各居室から直通階段が均等に配置されない計画の場合、各階段が負担する避難者の数の割合が均等にならず、階段および階段手前で避難者が過度に集中するおそれがあります。しかし、ルートB1では、どの階段においても均等に避難が行われる想定となっています。

  • A〜E室までの避難者が避難する階段室として想定されるのは【A階段】
  • F室の避難者が避難する階段室として想定されるのは【B階段】

この場合、【B階段】は階段室内、階段室手前で滞留が起こらず、有効流動係数が大きく見込めます。対して、【A階段】では110人が避難に利用するため、滞留が起こり、流動係数が小さくなります。
しかし、ルートB1では、平均して避難する検討となるため、A〜E室の避難者についても【B階段】を使用し避難することとなっています。

Aloadの算定について:参考画像

あとがき 〜建築基準法は最低基準を定めている〜

避難安全検証法を適用する建築物についても、計画建築物の避難計画上のネックとなる部分を熟知し、ネックとなる事項は補強し、安全性能を高めるようにしてください。検証法の適用では、排煙設備を設けず煙を「蓄煙」させる無排煙の状態で検証をするケースが多くあります。しかし、コスト削減を目的とした蓄煙ありきの設計だけではなく、その他にも設計の自由度の向上を目的として考えることができます。
以下のような例が挙げられます。

  1. 物販店舗等の避難階段の軽減による売場面積の効率向上
  2. 特殊な仕上げを使用したい場合など、内装材を選択する際の自由度向上
  3. 直通階段の配置の自由度向上(物品販売店舗のほか、工場などでも階段の配置の自由度向上により、生産設備の自由度が向上します。また、大規模な建築物であれば直通階段の数の軽減等も可能)
  4. 物品販売店舗の屋外出口幅を減少させた計画が可能(店舗面積に対して6/100以上の開口幅の要求があり、3,000uの店舗ではその合計が18mとなります。開口部をバランスよく配置し避難を十分に満足することで、開口部を減少させた計画が可能となり、防犯上も有効な計画とすることに寄与)

コスト削減のみを目的とするのではなく、このように「設計の自由度が増した」という意識で避難安全検証法を活用することをお勧めします。仕様規定で一律に定められていた「内装制限、排煙設備、防火区画、直通階段までの歩行距離、物品販売店舗の屋外出口幅等」については、ある部分の性能を高めることでその他の部分の規定を適用しないことが可能となります。

たとえば、充実した排煙設備や防煙区画を設けることにより、直通階段までの歩行距離を伸ばすことができる等のメリットも十分にあることを、建築主にもご提案できます。
ビューローベリタスは、建築基準関係規定に適合していることを確認し、確認済および検査済証を交付する立場にありますが、ビューローベリタスの企業理念である「顧客の資産・事業・製品・組織に対する品質・健康・安全・環境および社会的責任へのマネジメントを通じて、業務資格の保全、リスクの低減、あるいは業務改善を実現し、経済的価値を提供する」に基づくアドバイスとして、コラム「避難安全検証法」を参考にしてください。

現在は、施行令第129条の2、第129条の2の2、平成12年告示第1440号、1441号、1442号と、これらを解説した2001年版避難安全検証法の解説および計算例を参考に、基準法の判断が行われております。その解説で具体的に示された判断基準のみでは明快な判断ができないグレーの部分も多くありますが、その後の内容の改訂等はありません。
近年の改正では、従前の階避難安全検証法と全館避難安全検証法に加えて、区画単位で検証を行う区画避難安全検証法(令第128条の6、令和2年告示第509号)が追加されました。また、従来の避難時間による検証方法に加え、煙の高さによる検証方法も追加されています。今後は、従来の階避難、全館避難安全検証法の解説の見直しとともに、区画避難安全検証法の解説等を加えた改訂版の整備等も望まれます。

※改正により現在は、それぞれ令第129条、第129条の2、令和2年告示第510号、令和2年告示第511号

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